スペインで就職を(女性に言ってはならぬこと)

25.労働ビザ延長
 労働ビザの有効期間は最初が1年、2回目更新が2年、3回目以降が5年間隔の様に暫時増加していく。2回目の更新時、期限の1ヶ月前に行政出先機関に出頭して必要な書類をもらい、会社や個人的な記入を済ませて国家警察でビザの交付を受ける。
 国家警察は木立深いアマラ地区にあり事務所の前は相変わらず、自動小銃を構えた警察官が警備にあたっていた。
今迄は事務所の中で順番を待っていたが、申請者の数が増えたせいか降雨でも事務所の外で傘をさして待つ。
 労働ビザ延長手続きの要領が良く判らないため最初は手間取るが最終的に簡単に手続きを終了した。
この時の問題は妻をスペインに呼び寄せるのに時間がかかると言われた。先ずは私のビザ延長後にその手続きに入ると説明を受けた。


26.女性に言ってはならないこと
 夏休みを日本で過ごしバスクに帰った会社の初日の事であった。
若い受付嬢に挨拶をしながら少し肥えたのでは思った。
その通り口にして伝えた。
すると突然血相を変えて怒り出した。
 「私は肥えてなんかいないわ」
 驚いた。性格のきつい娘と思っていたがそんなに怒る事でもあるまいと
合点がいかない。他の人に話してみるとそれは絶対に女性に言ってはならぬ
事だと教えられた。
 スペイン人は浜辺(プラジャ)を大変に好む。
 若い女性のみならず塾年女性でさえも冬場には肥満に目をつむりせっせと美食した代償に翌年の5月頃からジムに通って減量に取り組む。
 その目的は夏の浜辺の水着姿にふさわしい体形を維持しようとのねらいである。
 女性にとって浜辺の楽しみは日光浴で砂浜に寝転んで体を焼く事である。
サンセバスチャンに行くと、ブラジャーも脱ぎ捨て肌を焼く姿を少なからず見かける。(それを眺める男性諸氏も多くいる)
 印象派画家モネが描いた日傘をさす婦人風景は全く見られない。
 1世紀前のことである。
 若い女性の小麦色の肌は健康的で美しいが、塾年女性の真黒に変色した肌は見るに耐えがたい。
 日本女性は紫外線から肌を守るため暑さもいとわず保護に努力を惜しまない。
 これ程まで違う生活文化は1世紀の周期で揺れ動くのかも。
 バル・イセンベの奥の壁には100年前に撮影されたデバ新広場で日傘をさす婦人達の白黒の大きな写真が証拠の如く貼られている。
 

27.役所はコネの世界
 労働ビザ延長の交付を受けた。妻の滞在ビザ手続きの質問をすると最短で
10ヶ月は必要と冷淡な説明を聞き唖然とした。
以前友人メンチュウから
「友人が書類関係の官公所の所長をしているので、困った時にいつでも言ってくれ」
と聞いた事を思い出しメンチュウに相談した。
 メンチュウ曰く
「彼女は国内関係の書類担当で外国人の事まで影響があるか解らないが話をしてみる」
としばらくその話を忘れていた。
 1ヶ月も経過しない内、国家警察から携帯電話に電話があった。
「貴方の奥さんのことで至急出頭すること」
 訳が解らぬままサンセバスチャンの警察に行くと、
「書類が整ったので今から日本のスペイン大使館で手続きに入りなさい」
 後日メンチュウに礼を言うと彼女の友人は
「管轄外の仕事ではあったが、一番下に置かれた申請書類を一番上に
置き直しただけの事」
とあっさりと言う。そして
「スペインでは“コネ”が大切なの」
と付け足した。