スペインで就職を(絵の個展、チャコリ)

8.絵の個展
 スペインで絵を習い始めた私にとって個展開催は就職の次の夢であった。
 「まだ仕事も軌道に乗らないのに?素人がどうして?」
 と言われてもおかしくない個展である。
素人画家とも呼べない入門画家が個展を開催すると言う厚かましさは日本では考えられない事でありスペイン限定の話であった。
 その理由は喫茶店と居酒屋をごちゃ混ぜにしたようなバルの存在にある。バルはカウンターと立席で構成され背面は壁でウナギの寝床の様な店舗が、基本レイアウト、客はカフェやワインを飲み短時間で店を移動する。
 店の構造と客の回転率の良さが個展開催の条件に合致しバルのオ―ナも出展者も満足する空間を得、多くの素人画家がバルで絵の個展を開く。
従って希望者は3カ月から半年前の予約が必要となる。
83歳の友人アントニオがうまく間隙をぬってバルの予約(2001年9月29日~10月29日)をしてくれた。
 場所はサンセバスチャン市郊外ベリージャ地区のカフェ・バル“丸亀”である。(香川県丸亀市はサンセバスチャンと姉妹都市であり、ベリージャ地区には丸亀市から贈呈された建築物や樹木がある)
日本語とスペイン語の混在したポスターや案内を作り準備をした。実質的
にはアントニオの手伝いが殆んどで開催にこぎ着ける事ができた。
アントニオの助言でスペイン流オープニング・パーティを行う。
 個展開催の前夜に案内を出した知人・友人約20名がバルに集う。
バルには飲み物と軽食やつまみを依頼しており集まった人達が歓談して
時間を過ごす。初対面の私の友人同士が知人となり和が広がって行く。
 話題は{絵に価格表示がないのは何故か?}であった。
 素人が始めて個展を開く事は想像以上に恥を晒す事で個展で絵を売ると
はとんでも無い話であり、さらに罪を重ねたくない心持であった。
スペイン限定の個展は私の如き初心者でも平気で開催出来る国民性なの
かもしれない。
 性懲りもなく翌年再び同場所で個展を開いた。
2度目は落着いた状態で価格も表示し数枚の絵が売れた。恥じらいもなく素直に自分の力を認めた個展となった。
個展開催の利点はより質の高い絵を描くための刺激を得る事だと思う。
スペイン限定と定義つけた個展は厚かましくも帰国後2度開催することになる。 
9. 白ワイン・チャコリ
私は酒豪ではないが酒は好きである。
 特にチャコリと言うバスク原産の白ワインは特別である。
 赤ワインより一般的に価格は高いがその酸味が大変美味い。
 デバ村に近いゲタリア村(漁港)とフランスとの国境の町ホンダリビアの2か所のみが産地だそうでバスクを訪れる日本人は必ずチャコリを注文するとも聞いた。日本人に合った白ワインと言える。
 チャコリは僅かに発泡性を残したたまま瓶詰めされるデリケートな酒で品質を保ちながら輸送することが難しいワインと聞いた事がある。
 赤ワインはバスク州内陸部に隣接するリオハ州産が有名である。フランスのボルドーと並び称される程でリオハであれば良いワインと太鼓判がうたれる。
友人メンチュウの旦那ホセ・マリアからワインにつき随分講釈を聞いたので一部を記述しておく。
 スペインのワインは3種類(ホーベン・クリアンサ・レセルバ)に分類される。
 ・ホーベンは醸造されてすぐに瓶につめられたワイン(若い意)
・クリアンサは樽と瓶で2年熟成したワイン    (育てる意)
 ・レセルバは樽と瓶で3年以上熟成したワイン   (蓄えの意)
 価格的にはホーベンが安くレセルバは高くなる。
 メンチュウの家庭では赤ワインは1日2本を必ず飲むため経済的にホーベンをリオハの醸造メーカーと樽で契約して都度瓶詰めされて送られると聞いた。友人の家に招待される場合はクリアンサ級のワインを持参する。
 日本で人気のボジュレ・ヌーボ(フランスのワイン)もホーベンと似た立場のワインと思うが輸送費、関税、酒税が上乗せされ価格が上昇する。
 バスク州にはシドラと言う酸味の強いリンゴ酒もあり粉状のものが混在するため高い場所から放物線を描きながらグラスに注ぐ超経済的な酒。
 日本では販売情報を聞くことのないスペインのコニャック、カルロス・プリメロも私の好きな酒である。
 今この項を書きながらチャコリを思い浮かべると思わず“つばき”を覚える程に懐かしい。