・5月30日 前の会社へ
 朝雨が降っている。
 9時頃家を出てデバの駅前のバルで朝食をとる。
 銀行BBVA で換金する。
 換金を終えて又浜辺のバルで風景をスケッチする。一度家に帰り明日の帰国へ向け荷物の整理を行う。
 昼過ぎ午前中の仕事を終えたイケルが車で迎えに来た。
 イケルの父親の大きな家に向かう。
 広いダイニングにインコか大きな鳥かごの中でキーと鳴く。メードが食事の準備をする。
 食事を終えイケルと会社へ出向いた。
 前の会社I社は倒産のため存在しない。前社長は他に3つの会社を持っておりそこに再興を図る従業員達がいた。皆私に会いたがっていると聞いていた。
狭い事務所、狭い工場で皆頑張っている。再会を喜び記念撮影をして仕事の邪魔にならぬよう皆と早目に別れた。正直言って会社に残った若者達は7年間にたくましく成長しているように見えた。
近い将来、もとの工場に戻れる日が来ると言うが皆は声を揃えて
「一歩一歩」と言う。
 会社再興を強く願望する。
 仕事が終わるのを待ちイケルと黒いシェパード・トールと車でビルバオの獣医院に犬の診察に出向いた。トールは車が好きだと言う、
ビルバオの都会に入るとトールは緊張するらしい。
デバの山中に育つ犬にとって都会の雑踏には慣れてないからだ。トールを0歳の時に買った。この時4kgの体重で1年後の現在は40kgになった。0歳時代はイケルのベッドに一緒に寝ていたらしくイケルは御主人様である。
昨年散歩中に前左足の異常に気付き診察の結果、間接異常で骨の手術を2回行い現在に至っている。今術後の観察らしい。
 私は日本でも獣医院に行ったことはない。
 獣医院には複数の医師と診察室があり待合室には4匹の犬が飼い主と共に不安そうに診察を待っている。
 X線撮影後医師の診断が下りる。
「まだ充分に骨は接着していないので激しいトレーニングをしない事、体重が過度に増加しないようにコントロールする事」
 薬をもらい獣医を去った。
 デバへの帰途、高速道路で事故に遭遇した。
高速道路は集中豪雨に見舞われ渋滞が始まり車の列は停止した。
ラディオは停止地点のすぐ近くでトラックがハサミのような状態でクラッシュしていると放送していた。30分程待つと後方から警察官が歩きながら
「エイバールのインターチェンジから一般道に侵入できる」
と歩いて伝えている。
トラックを除く乗用車はすべて向きを変えて高速道を逆走して近くのインターチェンジへ急ぐ。一般道から事故状況を見ると緩やかな曲線の高架橋からトレーラがぶら下がっていた。
エル・ゴイバールの中心部に古い教会が照明に照らされ荘厳に映る。教会前の広場の隅にイケルのノビア・エレナのデンタルクリニカがある。スペインで歯科医院に入るのは最初である。
イケルの話でクリニカは女性らしい配慮がなされて評判が良く中々可愛い。治療室は日本のように複数の椅子はない。1人1室となって将来は拡張するための予備の部屋も用意されている。治療室は明るい色の医療器具でコーディネイトされ私の絵を飾りたいので日本の風景画がほしいと要求された。

f:id:viejo71:20190902173227j:plain

  エレナの歯科医院の診察室

 その後3人で雨の中、傘のオープンテラスに座り生ハムとコイワシのオリーブ油漬けを肴に赤ワインを飲む。来年の夏は2人で日本に行くと言う。もちろん広島の我が家にも来ると聞いた。スペインの歯科医院は夏1カ月間を休むらしい。患者が旅行で診察には来ないので。
 教会をバックに二人が相合傘で歩くシルエットをカメラに収めた。
 イケルの両親の家に帰り遅いセナをイケルとする。その時私の携帯電話にメンチュウから電話が入った。
「荷物の整理はついた?帰国したら私の妻に宜しく伝えてほしい」
私からお礼の電話をと思っていたがメンチュウとはそんな女性である。
その後私の描いた3枚の絵を飾る部屋で写真を撮りイケルの両親と
別れの挨拶をすませデバの家に向かった。日本への出発を前の長い1日である。