スペインで就職を回想録(会社生活その1)

2.勤務時間 
 自分の所属する生産技術部は営業部の隣にあって、朝7時から仕事が始ま
る。
 8時過ぎ頃から営業部の電話が鳴り響く。ある者は英語、ある者は独語、
仏語とうるさく電話での会話が飛び交う。EU内企業を実感する。
工場は午前6時から午後2時迄、同2時から夜の10時迄の2交代シフトである。
早番の者は途中15分の小休憩を挟んで8時間連続で働き、自宅に帰って家族と共に昼食をとる。
小休憩は自宅から持参したサンドイッチや果物を食べながらコーヒーブレイクで休む。
会社までの通勤時間は平均30分、早番の者は朝5時に起床する。
妻は寝ていて手伝いも見送りもしない。
バスクの主婦全部が低血圧でもあるまい、この地方の妻達は相当タフで厚顔に思える。
  一方、事務所関係は朝7時始業で午後1時から45分間の昼食時間がありその後4時半まで働く。
 昼食は会社持ちで2皿の料理にデザートがつきワインも飲める。
 社員は昼食やワインをまずいと言うが単身の自分には有難い事である。
 勤務時間終了の5分後には、従業員全員会社から姿を消して誰もいなくなり、会社に残るのは一握りの幹部社員だけである。
 朝6時からの仕事はハードに見えるが作業者にとって望ましい時間帯で午後は好きな事が出来ると言われる。
 長く勤めた日本の会社では始業時、3時には全員そろってラディオ体操をするがここではそれがなく始業のチャイムもなかったように思える。

3.会社の組織
 私が勤めるA社は従業員150名程で精密加工機械のエンクロ-ジャや切粉回収用コンベヤーなどの工作機械周辺装置を設計・製作する企業でスペインではシェアーも高いと聞いていた。
(この地方では従業員100人から400人程度の規模の企業が多い)
 組織は非常にシンプルで社長の下に人事・経理担当部長と営業・設計製作部長と合計3名が全てを掌握していた。
 新工場建設にともない生産技術部門が新しく設けられ、K氏と若い2名の技師,私を含めて4名が新しく雇用された。
 工場には、工場長と各部門責任者がいるが責任者に役職手当は支給されず誰も成りたがらない。
 組織は日本企業のように係長・課長等の中間管理職はない。仕事の責任は全て業務を担当した個人が負う。この単純な組織間にはお互いを理解するとか、下からの意見を取り上げる風土は全くない。
 会社側から見れば従業員は働かない人間という性悪説、労働者側から見れば幾ら頑張っても昇進はなく、与えられた仕事を無難に行えばそれで良い。
 大事なのは仕事が終わってからの個人生活であり人生を楽しむという風潮が多くを占めている。本当にこれで良いのだろうか。
 日本の権威ある書籍に“会社に対する忠誠心”について世界の国々からのアンケート結果をまとめスペインは2位で日本は10位と記述されていた。
 この順序は逆ではないかと不思議に思える。