第2部スペインで就職を(その2)

 

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1.スペイン企業で仕事開始
  2001年9月3日午前6時半。
  辺りは濃いブルーに覆われて遠くに連続した白橙色の街灯がぼんやり眠っているように見えた。
  スペイン北部バスク地方の朝は夏時間のせいかまだ暗い。
 イチアール工業団地の頂上へ向け大きく曲る坂道を歩いて登っている。
 昨日の昼間、初出勤を前にペンションから会社への道を下調べしたにも拘わらず道を間違えたらしい。
  暗さの性だ。
  何台もの車が前照灯の白いビームで坂道の傾斜を示すように遠くを照らしては私を追い越し消えて行く。
  時間はすでに7時10分前、会社の始業は7時である。
  初出勤から遅刻するのか、いやな予感がする。
  その時1台のアウディ・セダンが横に停止した。
  社長の車であった。
「救われた」
  工業団地の最上部に開けた約1万平方メートルの工場と2階総ガラス張りの事務所が表れた。工場入口には芝布と広い駐車場があり、従業員の通勤車両でほぼ埋まっていた。
  事務所では従業員が長い夏休みを終え久しぶりの仕事始めに疲れた顔を見せる。
「ケ・タル」(元気)と挨拶を交わす。
 労働ビザ手続きのため一時帰国して2ヶ月間、日本に足止めされたがその前に同社で1ヶ月の研修を受けていたので、一部の社員とは顔馴染みである。
  生産技術部門のディレクトールK氏に久しぶりに会う。
  私の上司で身長180cmの若いバスク人スペイン語バスク語の他にフランス語・ドイツ語が出来る。K氏に工場内の重要人物を紹介され、1ヶ月間の教育スケジールの説明を受けた。
  スペイン企業に就職することを夢見て早2年半が経過した。幸い願いがかなったが、自分がこの会社で役立つかは否かまだ解らない。1年間の労働契約書にサインしたが、その先は首になることも覚悟している。
  こうして54歳の新入社員は日本を遠く離れたスペインで緊張と不安の中新しい生活を始めた。