スペインで就職を回想録(会社生活その1)昇給

18.昇給
 夏休みが終わり又仕事が始まった。
 社長は出張で会社には2~3日顔を見せない。
 相変わらず設計の同僚の通勤車に便乗して自宅から会社までの往復に利用させてもらっている。彼は年齢35歳の離婚者で技術部の実質的責任者であった。
 公私共に良く相談にのってもらっていた。
 昇給の話を聞いてみた。
 スペインの会社では賃金交渉は会社生活で一度程度、それ以外は許されない慣行らしい。
 私の立場を知っている同僚は絶対に申出るチャンスだと言う。
 日本の会社で給料交渉の経験が全くない。
 組合が代表してその交渉を行い、個人的に分配が決まるもので幾ら欲しい等と言えるものではなかった。
 私のスペインでの給料は平均的な額だそうである。
 大体要求する額の腹積もりは決めていた。
 そして社長が出張から帰り社長室に呼ばれた。

 少し緊張していた。(金の事になると緊張する悪い癖である)
 社長から一方的に回答が出た。
 税、保険等引き去り後の額の140%増が言い渡された。
 私の考えていた額に隔たりがあったが、それで了解をした。
 「仕事の成果によってまた交渉の機会はあるのか」
 「それは勿論のこと」

 この時点で会社の置かれている環境の悪さを理解していなかった。
 後で考えてみると会社としては精一杯の回答ではなかったのか?