スペイン滞在回想録 労働許可申請
5-19.労働許可申請
(1)労働許可申請
4月に入ると、セマナ・サンタ祭り前に大学の定期試験が行われる。
その頃、弁護士ニエベスから会社側の資料が揃ったとの連絡がやっとあった。
4月5日の月曜日に、代理弁護士アナと待ち合わせてポダミネスに出向いた。
責任者イサベルとニエベスの話がすでに着いていたのか、資料の件数の確認が主な手続きであった。とにかく提出は終わった。
スペインに滞在して約2年目の事である。責任者イサベルに代って、事務員が言った。
「今回の提出書類の一部控えとともに、日本のスペイン大使館に居住ビザ発行のための申請を出して下さい。代理人が立てられるのでこの書類にサインをして下さい」
私は妻のパスポートのコピーを持っていたので即座に記入署名し、当局のサインを得た。その旨を日本にFAXで知らせた。
その夜、絵画教室のアントニオの家に夕食に誘われた。老夫婦の食卓は慎ましいもので、これが長生きの秘訣である事を認識した。帰国時、貝原益軒の「養生訓」を読んだが、粗食が昔も今も長生きの条件である。
(2) 食い違い
居住ビザ申請のために必要な、東京のスペイン大使館への質問に長男の恋人が出
向いてくれた。私からの質問は4月11日に日本の自宅にFAXを送付していた。
質問に対するスペイン大使館からの回答はマイコのコピーと同じ内容で、健康診断、無犯罪証明、パスポートの提出が求められていた。
パスポートを提出する事は、本人が一時帰国して日本に滞在する必要がある。私
は今、大学に籍を置き途中で辞めるわけにはいかない。
弁護士ニエベスは早々とセマナ・サンタの休みをとりバルセロナへ出かけていて
質問ができない。事が順調に進まず苛立ちと共に時間だけが虚しく過ぎて行く。
ルールデスは、パスポートは日本へ郵送可能であると言う。信じられない。
パスポートは海外生活者の命である。ルールデスと大きく意見が違っていた。
日本大使館にも電話を入れ、パスポート送付の件はあり得ない事を確認した。
この誤解を解く鍵はノタリオと言う公証人事務所にあった。
パスポートを日本に送付する代わりにコンプルサードされた(謄本)証明を発行してもらえば良い事がわかった。4月18日、代理人弁護士アナに付き添われノタリオに出向いた。通常2~3日かかる発行が30分で終わった。アナの顔によるものである。
一方ニエベスに対しては不信感がつのり続けた。本件をあまり良く知らないので問題が起こってから対処する方法をとっている。
4月18日書類を整えながら、まだ不安と疑問は残る。それは東京のスペイン大使館から自宅に届いた居住ビザ申請に必要な書類の、無犯罪証明と健康診断の不足であった。無犯罪証明に関し妻が広島県警に問い合わせた結果、マドリドの日本大使館に問い合わせるべきと回答であった。そうすべきかニエベスに質問すると
「それはもっと先の事で、ビザ受領時も日本に帰国の必要はない」
と答えた。
その夜の食事中、ルールデスからニエベスの伝言を聞かされた。
「解らない事をあれこれするな」
それを聞いて、つい私は頭にきてルールデスにきつく当たってしまった。
私の怒る理由はニエベスが前以ってビザ取得までの手順を明示しない事。
こちらからメールを送付して質問しているのに、いつも電話でルールデスを介しての回答しかくれない事である。その上、ニエベスは東京のスペイン大使館の言う事を無視し続けている。ルールデスは泣きながら訴える。
「今まで協力してきたのに何故文句を言われるのか」
確かにその通りである。ルールデスに怒っているのではなかったが弁護士もルールデスも同じに思えた。
離れたマドリドに住む弁護士は会話能力の不足する私にとって良い選択ではなかった。いずれにせよ、けんかは私の負けである。
翌日ルールデスの会社からDHL便を使って、日本の自宅に次の資料を送付した。DHL便の料金は8000ペセタ程度と記憶している。
A. 代理人指定申請原紙 Designacion de presentante
B. 労働・居住認可申請書写し Permiso de trabajo y residencia
C. 労働許可申請書の写し Oferta de trabajo para trabajadores extranjeros
D. パスポート謄本 Pasaporte comprosado
E. 本人写真
F. パスポートのコピー
5-20 居住ビザ申請
DHL便で送付したビザ関連資料が4月26日に日本に届き、妻は私の指示通り居住ビザの申請書に記入して、翌日東京のスペイン大使館に申請に出向いた。
妻からは
「スペイン大使館員から健康診断書と無犯罪証明書が不足しているので問題あり、と指摘を受けたわ」
と連絡があった。
ただちに弁護士ニエベスに電話連絡をとるが、大丈夫と言う。念を押すためE-mail を送付した。日本は明日からゴールデン・ウィークに入るため1週間休みになる。
一方会社の責任者はから
「4月27日にホテル・アマラで会いたい、都合はどうか」
と留守電が入っていたので、了解の旨返事を入れた。
ホテル・アマラでの打ち合わせは
「5月からエル・ゴイバールにある情報専門学校に1カ月間通ってAUTO CADを勉強してほしい。費用は会社が持つ」
了解をした。エル・ゴイバールはサンセバスチャンからエオスコ・トレンの電車に乗って1時間半の場所にある。